深刻な奨学金問題。17万人が滞納。
かつて私もお世話になった奨学金制度。
なんと17万人が滞納状態という。一体どういうことが起こっているのか?
学生時代に借りた資金の返済が、卒業後も長期間、重くのしかかって生活を圧迫していく。そんな奨学金制度の在り方が広く社会で問われるようになってきた。学ぶための資金が、なぜこんな問題を引き起こすのか。
■ある利用者のケース
大学卒業生の女性が、ある日突然、裁判所から通知が届き「300万円の一括返済」を迫られた。
彼女は30歳だそうです。アパートで1人暮らしを続けている。最初に通知があったのは、2013年2月だったという。
学生時代に独立行政法人日本学生支援機構(支援機構)から借りた総額316万円の奨学金。「毎月1万6000円の返済を20年間続ける」という約束が果たせなくなって返済が滞り、とうとう支援機構側が裁判所を通じて一括返済を申し立てたのだという。
この女性、2003年春、東京の私立大学に入ったものの、家庭の事情で、授業料が未納になり、実家からの援助も途絶え、学生課とも相談し、まず、支援機構の利子付き奨学金(第2種奨学金)を毎月10万円借りることに。
しかし、それでも未納の授業料や生活費をカバーしきれず、昼間は学校に行き、夕方からは飲食店でアルバイト。仕事は朝5時まで続き、少し仮眠してまた大学へ行く。1年間休学もして進級に必要な学費を貯めたという。
・・・しかし結局、彼女は学業と学費・生活費稼ぎは両立しなかったという。
休学後にキャンパスへ戻ってくると、「なんで自分だけお金に苦労しているのか。ならば、その元を切ってしまえばいい」と脱力感から、自ら大学を自主退学。その時点で支援機構からの奨学金は316万円。「高卒」のままでありながら、返済負担だけが残った。
この30年間、日本では世帯収入が伸び悩む一方、学費は上昇を続けてきた。社会全体の貧困化も進み、若者の生活環境を直撃。親元を離れ、「親の援助」によって学生生活をまっとうできる若者は、限られた存在になりつつある。
■毎年半数以上、100万人以上の若者が奨学金を利用
日本最大の奨学金実施主体である「支援機構」のデータによると、2015年度(平成27年度)の奨学金利用者は、全国で約134万人に上った。10年前の3割増、人数で言えば35万人も増えている。
一方「延滞者」も増加。貸与奨学金は社会人になってから返済の義務が生じるが、支援機構のデータによると、3カ月以上の延滞者は実に約17万人にもなる。奨学金の返済に追われている若者も少なくない。それにしても、なぜ裁判所で支援機構と向き合うような事態が起きるのだろうか。実は支援機構は延滞者に対し、貸し金の返還を求め、滞納者には督促を行う。督促しても返済がなければ、裁判所を通じて返済を求める。このプロセスは、通常の貸金業務と何ら変わらない。
■奨学金利用者がブラックリストに?
延滞を続けた結果、信用情報機関との情報共有、つまり「ブラックリスト」への登録となる。そうなると、借りた側はクレジットカードなどの利用が難しくなり、生活設計が大きく狂ってしまう。
「少しでも学びたい」「親に頼らず、卒業したい」という思いを抱え、20歳前後で「奨学金」に頼った人たちが後年、貸金訴訟の被告になってしまう。しかも、そのリスクは奨学金を借りるとき、ほとんど認識されていない点は大いに問題だ。
■もともと制度に問題があり
貸与奨学金は、本来信用のない10代の若者に学費とはいえ何百万円の借金を無審査で貸し出す制度。申請段階では、どこの大学に行くかも、(将来の)職業もわからない。
だから入り口は奨学金の性格。ところが出口の返済になると、金融機関の論理がむき出し。返済しなかったら遅延損害金、払わなかったら裁判、親から取り立て。まさに金融の論理。
また、奨学金の財源の割が返還金で占められており、返済がないと財源はあっという間にゼロになる制度。これは社会保障制度とは程遠い制度といえる。
■世界の常識は?
経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国のうち、大学の授業料が無償の国は17カ国を数えるという。さらに「給付型奨学金」をみると、国としての制度が存在しないのは日本とアイスランドの2カ国しかない。アイスランドは授業料が無償だから、「授業料有償+給付型奨学金なし」は日本だけ。この分野では先進国でないことは明らか。
■日本の奨学金制度が人生設計を狂わせている
もし、結婚を考えている男女が両方奨学金返済に苦慮しているような状況だったら、二人は果たして結婚に踏み切れるだろうか?
非正規雇用だったらどうだろう?ましてや、子供設けようと思えるだろうか?
少子化が社会問題となっている、晩婚化の解消を訴える政治家もいる。しかし、奨学金制度の仕組みを変えることも、これらの問題を解決する一つの方法ではないだろうか?
■もっと深刻な米国の事情
実は、米国の方が深刻で、平均2000万円を抱えて大学または大学院を卒業するという。いい職につけなければあっという間に自己破産するという。米国で2008年のサブプライムローンの経済危機の次の経済問題はこれだと指摘する人もいるという。
私は、どうも高学歴化が国に活力を与えているとは思えない。日本は資源に乏しいため「人が財産の国」。であれば教育には国がもっと投資すべき。そうすることで、社会人がマイナスからスタートするなどという人生設計はなくなるはず。
晩婚化が進み結婚しない適齢期の人々の増加は、奨学金の返済も原因の一つであることは間違いない。