6月の風の便り
最近、「AI(人工知能)」に関するニュースや記事をよく目にするようになりました。
私がショックを受けた映画に、『アイ,ロボット(I, Robot)』(2004年7月16日に公開された20世紀フォックス配給のアメリカ映画。)という映画がありました。テクノロジーの進化の過程で、コンピュータが怒りの感情を覚え、やがて人間を支配しようとしていくといったストーリー。
これまでも歴史では、テクノロジーの進化によって人が仕事を奪われるというシーンは繰り返されてきました。18~19世紀の産業革命では、機械化によって農民や手工業者が失業し、1960年代のオートメーション化でも、多くの工場労働者が職を失っています。ある飲料メーカーを訪れた時に、工場は24時間稼働で規模も大きいのですが、労働者は100名で3シフトで稼働していると聞き驚いたのが10年前です。以前は500名いたらしいので、雇用は五分の一になっています。
最近は「テクノ失業」に進化。コンピュータやインターネット、さらには今後の普及が予想されるAI(人工知能)の登場で、単純労働者のみならず知的労働者の仕事までもがテクノロジーに取って代わられる――そんな恐怖のシナリオが、現実になりつつあるといいます。
野村総研の試算によると、日本国内の601種類の職業のうち、49%が10~20年のうちにAIやロボットで置き換えることが報告されています。
■アメリカではすでにテクノ失業が進行中
IT先進国の米国では、すでに「テクノ失業」が社会問題になっています。「オバマ政権下では失業率が減少したかのように報道されている米国ですが、職業安定所への登録がないために捕捉されていない失業者も多く、実態としては25歳~54歳の働き盛りの男性の10%前後が失業者だと言われます。その主要因と考えられるのが『テクノ失業』」。
例えばテラーと呼ばれる銀行の窓口業務は、ネットバンキングに移行しつつあり、全米のテラー数は2001年から8年間で約70万人も減少しました。また同期間に、製造業でもロボットの導入などによって約270万人の職が奪われているといいます。
■今後の大量失業業界
今後大量の失業者が出ると見られているのが「トラック業界」。そして、ルートを走るバス運転手にタクシー運転手も同様といわれています。広大な土地を有する米国ではトラックの運転手が約300万人。男性の間では最も雇用者数の多い職業だといいます。トラック業界における“自動運転車”が与える影響は計り知れません。まずは空港や物流ターミナルなど、敷地内での運搬に携わる車から無人化されていくと予想されています。同様に、決まった路線を走る公共バスも無人化のターゲットになります。
■大企業にも変革の兆し
「2014年に、みずほ銀行がIBMの質問応答システムWatsonをコールセンターに導入しました。金融は多くの規制に守られている業界の一つが、多額を投じてWatsonを導入したところに、金融機関の危機感が感じられます。」
但し、「AIがすべての人間の仕事を奪う」と一概に考えるべきではないでしょう。経済産業省が4月27日に発表した「新産業構造ビジョン(中間整理)」では、むしろAIやロボットによる代替を積極的に進めていかないと、国際競争力で負けた日本は市場を喪失し、かえって多くの失業者を生む……と説明されています。
■「テクノ失業時代」に生き残る
「こうしたメディアに溢れる悲観論を鵜呑みにする必要はない」と断言するのは、AI研究の第一人者の野村直之氏。
「ここ最近、AIに起きたブレイクスルーとは次のようなものです。約1400万枚の画像の中の物の名前をAIに覚えさせていったところ、ある時点から、まったく新しい画像も含めてそれが何かをAIが自分で判別できるようになった。これ自体は大きな飛躍であり、人手では分析しきれない大量のデータ(ビッグデータ)を扱う際には強力なツールとなる。一方、“AIが人間を置き換える”とは到底言えないのも事実なのです。現状でAIが得意とするのは、人の脳内の思考を模すというよりも、目や耳からの刺激が何であるのかを判定する能力、すなわち視覚や聴覚に相当する部分だ。」
「だからと言って、現状のAIに人間一人の全人格がリプレイスできるわけではないし、その見通しすら立っていない。人の意識とは何か、モチベーションとは何か……そういったことが、まだまったくわかっていない。」
■生き残るために身につけるべきもの
「自意識や価値観を持たないAIは、丸暗記した対話シナリオ以外では『なぜ』を問うことができません。
一つのヒントは「“なぜ”を考えられる人であれば生き残れる」ということです。また、好奇心や冒険心、健全な競争意識や見えといった、人間らしいモチベーションなどはAIにはないもの。
もう一つのヒントは、広まった知識や資格はその価値が急速に衰えるとしても、これから価値が高まるのはデータ化されにくい希少性や特異性です。そういう意味では、人にない経験を積むことも忘れてはいけません。
日常生活では、必要がないことも、積み重ねていくと将来大きな価値に変わるかもしれません。また、「自分時間の過ごし方も、スマホを離れてみる」ことも、むしろ新しい発見につながるかもしれません。
※ワトソン(英語: Watson)
IBMが開発した質問応答システム・意思決定支援システムである。『人工知能』と紹介されることもあるが、IBMはワトソンを、自然言語を理解・学習し人間の意思決定を支援する『コグニティブ・コンピューティング・システム(Cognitive Computing System)』と定義している。2015年にはWatsonが各国の料理のレシピ、食品の香りや組み合わせ、嗜好性に関する心理的なデータを解析することで制作したレシピが出版され、日本ではレシピを実際にシェフが調理するイベント開催された。日本市場へも投入を目指し、2015年から日本IBMとソフトバンクテレコムが共同でワトソンの日本語学習やAPIの開発を行う共同事業をスタートさせた。