9月の風の便り

厚生労働省は2019年の財政検証を827日にようやく公表しました。財政検証とは年金制度が持続可能かどうかを検証する報告書であり、2004年の年金改革法によって5年に1度の割合で実施することが義務付けられました。2009年と2014年に続いて3度目の検証で浮き彫りになったのは、若い世代にとって将来の安定的な年金確保が極めて難しくなっているということです。

今回の検証においては、6つの経済シナリオ(ケース1からケース6まで)を想定して、年金財政への影響や給付水準の変化について試算しています。夫が会社員で60歳まで厚生年金に加入し、妻がずっと専業主婦であるという、現代社会には馴染みにくい世帯をモデルにして、所得代替率(高齢者が受け取る年金額が現役世代の所得の何パーセントであるか、それを表す比率)が将来にどのように推移するかを計算しています。

■経済が最も成長するケースでも、抑制は7年間続く

2019年度の所得代替率は、現役世代の手取り平均額35.7万円に対して年金額が22万円になるので、61.7%(22万円÷35.7万円)になります。ここから最も経済状況が好ましいケース1で所得代替率がどう推移していくかというと、2046年度には51.9%まで下がってしまいます。すなわち、たとえ経済が理想的なかたちで展開したとしても、これから27年間にもわたって給付の抑制を続けなければならないのですそれでも、6つの経済シナリオのうち経済状況が好ましい上位3つのケースでは、将来の所得代替率が50%を維持できるとしています。

 ケース1 2046年度に51.9%まで下がる。

 ケース2 2046年度に51.6%まで下がる。

 ケース3 2047年度に50.8%まで下がる。

 

■経済が成長しないケースでは、国民積立金が枯渇

これに対して、経済シナリオが下位3つのシナリオでは、将来の所得代替率が50%を下回ってしまいます。なかでも経済状況が最も芳しくないケース6では、所得代替率が2044年度に50%を割り込み、2052年度には現在150兆円もある国民年金の積立金が枯渇してしまうというのです。その挙げ句の果てに、所得代替率は翌2053年度に37.6%まで下落することを覚悟しなければならないというわけです。 年金給付の水準は「所得代替率の50%以上を維持する」ことが法律で定められているので、下位3つのケースが現実味を帯びれば、法律を遵守するために現役世代の納付額を引き上げるほかに、消費税の引き上げも視野に入れなければならないでしょう。なお、ケース4からケース6までの所得代替率の結果は以下の通りです。

 ケース4 2045年度に50.0%を割り込み、2053年度に46.5%まで下がる。

 ケース5 2044年度に50.0%を割り込み、2058年度に44.5%まで下がる。

 ケース6 2044年度に50.0%を割り込み、2052年度に年金積立金が枯渇する。

 

20歳は689か月まで働く?

今回の財政検証で注目すべき点は、現状の年金給付水準を維持するためには、例えば、現在20歳の人は689ヵ月まで働かなければならないという明確な選択肢を示したことです。これは、法定の支給開始年齢は65歳(2025年)だが、その受給時期を自ら先送りすれば、1月毎に0.7%だけ給付額が増える仕組みを活用したものです。

そもそも所得代替率の計算方法には、大きな欠陥が隠されています。それは、所得代替率を計算する時の分子である高齢者が受け取る年金額は「税金や社会保障費を支払う前の額」であるのに、分母である現役世代の所得は「税金や社会保険料を支払った後の額(可処分所得)」になっているということです。前回の2014年の財政検証においても、現実離れした賃金上昇率や物価上昇率を前提として、所得代替率50%を維持できるというシナリオを示していました。

今後は、具体的な対策を提示したうえで、国民も考えることができる透明性の高い資料を提示してほしいと思います。人口動態のシナリオと財政バランス、そして社会保険料と消費税の財源を組み合わせたシナリオを三次元で提示してみてはどうかと思います。我が国にとって未来を左右する大問題を政府だけで考える時代は平成で終わっているのではないでしょうか?

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